オーストラリア政府は、海上の抑止力を高めるための海軍力強化に向けた方針を発表した。リチャード・マールズ副首相兼国防相は8月5日、王立オーストラリア海軍の次期フリゲート艦として、日本の三菱重工業が提案する改良型「もがみ」級を選定したと明らかにした。今後10年の艦隊拡張計画の柱に位置づけられ、現行のアンザック級の更新を急ぐ構えだ。対外環境の変化を踏まえ、防衛と国防、そして安全保障の観点から、同国の軍事戦略を海上へ重心移動させる狙いがにじむ。
オーストラリアが海軍力強化で「もがみ」改良型を選定した方針発表
今回の決定で焦点となったのは、次期フリゲート艦11隻の調達先だ。豪政府は最終候補2社のうち、日本の三菱重工業を選び、ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)は落選した。
『日経アジア』などによれば、最初の3隻は日本国内で建造し、残る8隻は西オーストラリア州で建造する計画が示されている。豪側が国内建造枠を大きく確保した背景には、艦艇の導入だけでなく、造船能力やサプライチェーンを国内に根付かせたいという産業政策の意図もある。
契約総額は約100億豪ドルと見積もられ、船体建造費に加えて後方支援要員、造船施設、搭載ミサイルシステムなども含むとされる。国防相はこの協力を、日豪関係における歴史的な節目であり、両国間で最大規模の防衛産業協定だと位置づけた。海上の主力艦更新を軸に、二国間協力の「実務」が前面に出てきた格好だ。

国防と安全保障の文脈で進む豪州の海洋軍事戦略の再設計
豪州の国防政策では、地理的条件が常に重要な前提となる。広大な排他的経済水域を抱え、インド洋と太平洋を結ぶ航路に面する同国にとって、海洋の監視と防護は国内経済にも直結する。
そのため今回の方針発表は、単なる艦艇更新ではない。地域情勢の緊張感が高まるなか、遠距離での作戦遂行や、艦隊の即応性を高める方向へ軍事戦略を寄せる動きとして読める。
現場の課題として語られるのが、乗員確保と運用コストだ。オーストラリア放送協会(ABC)は専門家の見方として、日本案は入札価格がドイツ案より高い可能性がある一方、必要乗員が少なく火力も強い点を指摘している。国防省も、取得額だけでなく艦の寿命全体でみたライフサイクルコストでは日本案が大幅に安価になり得ると説明しており、防衛調達における評価軸が「買う価格」から「動かし続ける現実」へ移っていることを示す。
三菱重工の海外建造と造船移転がもたらすデジタル産業面の波及
三菱重工にとって今回の案件は、海外向けに軍艦建造へ踏み込む象徴的な一歩とされる。豪州側は11隻のうち8隻を西オーストラリア州で建造する計画を掲げ、調達を通じて国内の造船基盤を底上げする構図を描く。
艦艇の導入は、デジタル経済の観点からも波及が大きい。造船は、設計・製造・補給・整備を一体で回す産業で、工程管理や品質保証、部品トレーサビリティ、訓練支援などでデータ活用が不可欠だ。とりわけ長期の後方支援が契約に含まれる場合、稼働率を左右するのは補修計画や在庫最適化であり、ここにデジタル化の余地が広がる。
艦の性能面では、もがみ型は満載排水量約5,500トン、全長約130メートル、最大速力30ノット、最大90人規模の乗員で運用できる設計とされる。艦尾にSH-60K対潜ヘリを1機搭載可能で、62口径5インチ砲やMk41垂直発射システムなどを備える。最新艦「ゆんべつ」は海上試験中で、早ければ2026年にも就役する見通しと伝えられている。
豪州向け初号艦は、早ければ2029年の引き渡しが想定される。更新が進めば、アンザック級からの世代交代は艦隊運用の思想まで塗り替える可能性があり、豪州の安全保障政策は「どの海域で、どんな抑止を担うのか」という問いに、より具体的な答えを求められることになる。
