英金融行動監視機構(FCA)は、英国で展開される暗号資産関連の告知や販売促進をめぐり、監督の網をさらに細かくする動きを強めている。2025年9月17日に公表した協議文書「CP25/25」では、従来は一部に限られていた監督範囲を、取引・保管・ステーキングなど事業全般へ広げ、既存の金融ルールを適用する方針を示した。背景には、消費者の誤認を招く表現や詐欺的勧誘への懸念が根強いことがある。
とりわけオンラインで拡散しやすい広告は、短い文言や画像で投資判断を促しやすい。FCAは、金融プロモーションの枠組みだけでは追いつかない領域が増えているとして、広告規制を含むガバナンス全体の見直しを進め、違反抑止と市場の信頼回復を狙う。英国市場をターゲットにする国内外の事業者が対象となり、デジタル経済の要所であるロンドンの規律設計にも影響が及びそうだ。
英金融行動監視機構が示した暗号資産広告規制強化の骨子
FCAがまとめたCP25/25は、英財務省(HM Treasury)が2025年4月に公表した法案草案を土台に、暗号領域へ既存のルールを拡張する設計図となる。焦点は、広告表現そのものだけでなく、広告を出す企業が「どの体制で」「どの責任の下で」顧客に向き合うかという統治の部分に置かれている。
協議文書が掲げる適用範囲は広い。たとえばシニアマネジメントの責任分界、内部統制、コンプライアンス体制、外部委託管理、顧客対応やクレーム処理までを含み、暗号関連企業にも金融サービス企業並みの運用を求める考えだ。広告の審査や承認のプロセスも、こうした体制整備と不可分になる。

一方で、同じルールを機械的に当てはめるのではなく、暗号ビジネスの実態に応じて調整する余地も示された。外部委託や管理体制の要件は「そのまま適用」ではなく、業態別の設計を検討するとしている。逆に、サイバー攻撃など業界固有の脅威には、より厳格な基準を想定し、実務上の負荷は増す可能性がある。
デジタル広告がSNSや検索連動型の枠で急速に拡散する現状では、誰がどの責任で表現を管理し、問題発生時にどう是正するのかが問われる。FCAの今回の枠組みは、広告表現の是非を超え、企業の「説明責任」を前面に出した点が特徴だ。
CP25/25が広げる金融監督の対象と事業領域
CP25/25では、FCAの金融監督の射程を、従来の金融プロモーションや金融犯罪対策にとどめず、暗号関連の主要業務へ拡大する方針が明確になった。具体的には、ステーブルコインの発行、暗号資産の保管、取引プラットフォーム運営、ステーキング、仲介業務などが俎上に載る。
これにより、英国でユーザー獲得の広告を打つ取引所やウォレット事業者だけでなく、利回りをうたうサービス設計や、保管体制の安全性といった「商品の中身」まで、規律の整合性が問われやすくなる。広告が派手でも、裏側の管理が脆弱なら問題は再発する——その見立てが、監督拡張の根底にある。
現場の実務では、たとえば新規アプリのリリース時に行うインフルエンサー活用や、紹介プログラムを前提としたキャンペーン設計が、コンプライアンス部門のチェックと一体化していく。マーケティング部門が先行し、後追いで是正する運用は難しくなるだろう。広告が企業活動の「入口」だとすれば、入口の設計を変えることが、結果として商品の透明性にも跳ね返る。
こうした制度の強度は、国際的なルール整合とも関係する。英国が規制を整理し直すことで、海外事業者が英国向けに広告配信する際の基準も読みやすくなる半面、要求水準が高ければ参入障壁にもなり得る。監督の拡張は、市場の信頼と競争のバランスを同時に問う局面に入った。
消費者保護と不正防止を狙う一方で残る市場への副作用
FCAの狙いは、消費者保護と市場の透明性を制度面で底上げすることにある。責任者の明確化や内部統制の整備が進めば、詐欺的勧誘やフィッシング、乗っ取りといった被害への対応力が上がり、結果として不正防止の実効性が高まる。広告段階で誇張が抑えられれば、誤認に基づく購入を減らす効果も期待される。
他方で、規制コストの上昇は避けにくい。特に中小の事業者にとっては、監査対応、法務・コンプライアンス人材の確保、システム投資が重くのしかかる。広告出稿に際しても、審査のプロセスが増えればスピード感が落ち、競争環境が変わる可能性がある。
協議のスケジュールも具体的だ。CP25/25では、ディスカッション章(第6〜7章)の意見提出期限を2025年10月15日、協議章(第1〜5章)を同年11月12日としており、集まった見解を踏まえて最終設計を進めるとしている。制度化が進めば、広告運用は「クリエイティブの勝負」から「規制適合の設計」へ比重が移るだろう。
英国での動きは、国内の監督当局にとどまらず、各国が進める法規制の潮流とも無縁ではない。日本でも金融庁が暗号資産分野の制度整備を継続しており、国境をまたぐ広告配信や取引の実態に合わせたルール形成が課題となっている。英FCAの整理が、国際的な監督モデルの参照点になるのか、それとも厳格さが企業の流出を招くのか。焦点は、実装段階での運用設計に移りつつある。
FCA(英国金融行動監視機構)公式サイトでは、CP25/25に関する協議情報が公開されている。市場関係者の意見を踏まえた最終ルールがどう着地するかは、英国の暗号資産ビジネスが「成長」と「監督」の両立を図れるかを左右する試金石となりそうだ。
