Adobeは、企業向けのマーケティングツールに生成AIと人工知能を組み込み、キャンペーン設計からコンテンツ作成、効果測定までを一連の流れとして支える機能拡充を進めている。2025年のAdobe Summit(ラスベガス)では、Adobe Marketing Agentのプライベートプレビューが発表され、Microsoft 365 Copilotを介してTeamsやPowerPoint、Wordなど日常業務の画面から起動できる構想が示された。さらに2026年4月のAdobe SummitではExperience CloudをAdobe CX Enterpriseとして刷新し、エージェント型AIで運用の自動化を前提に据えた。
広告運用の現場では、クリエイティブ制作と配信設定が分断されたままでは意思決定が遅れがちだ。AdobeはMicrosoftとの連携を軸に、担当者がアプリを行き来せずにデジタル広告の素材生成やレポーティングに触れられる導線を整え、B2Bを含む運用負荷の軽減を狙う。業界では規制やデータ利用の制約も強まっており、運用の設計そのものが問われている。
Adobe Marketing Agentが狙うMicrosoft 365内での生成AIワークフロー統合
Adobeが2025年のAdobe Summitで示したのは、Adobe Marketing AgentをMicrosoft 365 Copilot上から呼び出し、普段の資料作成やコミュニケーションの流れの中でマーケティング作業を完結させるアプローチだ。Teamsでの打ち合わせから、PowerPointの提案資料、Wordのホワイトペーパー制作まで、担当者が同じ画面のまま素材生成や要約、インサイト抽出に進める設計が前提に置かれている。
同時に開発が進むAdobe Express Agentは、会話型インターフェースで画像アセットを生成し、プレゼンや文書、SNS投稿に必要なクリエイティブを短い往復で整えることを想定する。制作部門だけでなく、営業や広報など「一時的に素材が必要になる」部門が増えている中で、制作依頼の往復を減らす狙いが透ける。

連携の実務面では、Copilot経由でキャンペーン状況やユーザー行動の要点を素早く参照し、資料に落とし込む導線が強調される。さらにAdobe Workfrontと接続することで、案件のタスクや課題を要約し、プロジェクトの状態を追跡しやすくするという。生成AIの導入が「作る」工程だけでなく、回覧・承認・進行管理まで含めた運用の再設計へ広がっている点が焦点になる。
広告配信面では、LinkedIn Adsとの連携拡大も発表され、B2B向けキャンペーンのアセット制作を加速させる方向性が示された。Microsoft Advertising経由のディスプレイ広告でもアセット作成を利用可能にするなど、配信プラットフォーム側との接続を増やし、作成から出稿までの摩擦を減らす構えだ。ここで鍵になるのは、制作スピード以上に「企業のガイドラインを守ったまま量を出せるか」である。
一方、運用の自動化が進むほど、社内のデータ取り扱いと統制が重要になる。欧州を中心にAI規制の議論が進む中、企業は生成物の品質管理だけでなく、入力データの範囲や説明責任も求められやすい。関連する動きとして、欧州連合のAI規制をめぐる論点を追う企業も増えている。
Adobe CX Enterpriseで進むエージェント型AIによるユーザー体験と計測の一体化
Adobeは2026年4月のAdobe Summitで、Experience CloudをAdobe CX Enterpriseとしてリブランドし、顧客接点の統合を「AIエージェント中心」で進める方針を打ち出した。核となるのは、ブランドの一貫性、顧客エンゲージメント、コンテンツサプライチェーンの3領域を横断してつなぐ設計で、キャンペーンの企画と配信、測定までを単線化しようとしている。
統合エージェントとして位置づけられたCX Enterprise Coworkerは、オーディエンスのセグメント作成、適切なアセット選定、パフォーマンスの洞察収集、実行とモニタリングまでを連続的に担う。現場の実感としては、施策の成功要因が「設定の巧拙」から「運用データをどう整えるか」に移りつつある。データ分析が後工程ではなく起点に寄っていく構図だ。
もう一つの特徴が、AWSやAnthropic、Google Cloud、Microsoftなど外部インフラとのMCP(Model Context Protocol)連携を前面に出した点である。複数のシステムに分かれていた情報をまたいで、同じ意図のもとにエージェントが協調する構想は、企業の「つぎはぎ運用」をほどく方向に働く。結果として、ユーザーごとに異なる導線やメッセージを返すユーザー体験の設計が、特定部門の専業ではなくなっていく可能性がある。
ただし、パーソナライゼーションの高度化は、データ利用の説明と同意の設計も伴う。第三者Cookieの制約が強まる局面では、アンケートや設定情報など、ユーザーが自発的に提供するデータの価値が上がりやすい。最終的に問われるのは、AIを入れることではなく「どのデータで、どの体験を良くするのか」という設計思想になる。
デジタル広告とコンテンツ作成の自動化が競争条件を変える
広告プラットフォーム側でも自動化は加速している。GoogleはDynamic Search AdsをAI Maxへ移行する計画を公式に示し、検索語句の解釈やテキスト生成、最終URLの最適化までをAIで広く担う方向へ踏み込んだ。MetaもAdvantage+を軸に、目標を与えるだけで配信設計を進めるモデルを拡大しており、運用者の仕事は「手動調整」から「目的と素材、計測条件の設計」へ比重が移っている。
こうした状況で、Adobeの強みは制作と配信、計測を横断して扱える点にある。Microsoft 365内での制作支援が進めば、提案資料や社内合意形成の速度も変わり、施策の反復回数が増える。実際、広告運用の現場では「レポートを読む」より「異常を検知して次の打ち手を決める」重要性が高まり、エージェント型の補助が受け入れられやすくなっている。
一方で、生成AIで作った原稿やバナーを無加工で公開し、検索や広告の成果につながらない例も少なくない。業界関係者の間では、独自性や信頼性の担保がこれまで以上に重視され、テンプレート依存の量産は逆効果になりうるという見方が広がる。結局、自動化は工数を減らすが、成果の差は「何を検証し、何を学習させるか」でつく。
また、Microsoft側も広告の自動化を推し進めており、周辺環境の変化はAdobe単体では語れない。関連して、MicrosoftのAIによる広告自動化の動向を追うことは、プラットフォーム横断の戦略を組み立てる上で欠かせない。
生成AIがマーケティングツールに入り込み、人工知能がデジタル広告の運用やコンテンツ作成に影響する時代は、すでに「試験導入」ではなく標準化の局面にある。Adobeが進める統合は、制作と計測の距離を縮め、企業が改善サイクルを回す速度を押し上げる試みとして注目されている。
