国内の新規プロジェクトで、リリース前にスマートコントラクトの監査を通す動きが広がっている。NFTや分散型アプリ(dApps)の立ち上げが相次ぐ一方、コードの不備が資産流出や販売トラブルに直結するためだ。ブロックチェーン取引は原則として巻き戻しができず、ひとたび被害が表面化すれば、プロジェクトの継続そのものが難しくなる。日本語で依頼できる監査サービスも増え、開発現場では「まず監査を前提に設計する」ことが事実上の標準化になりつつある。
新規プロジェクトで進むスマートコントラクト監査の標準化と背景
スマートコントラクトは、Solidityなどで書かれたプログラムをブロックチェーン上に配置し、送金や売買などを条件に応じて自動化する仕組みだ。便利な反面、ロジックの想定漏れやアクセス権限の設定ミスがあると、攻撃者に悪用される余地が生まれる。開発が短期化するほど、その検証が追いつかないという構図もある。
この流れを後押ししているのが、過去の大型被害の記憶だ。たとえば2022年2月、クロスチェーンの相互運用プロトコルWormholeは脆弱性を突かれ、約12万wETH相当が不正に引き出されたと公表した。2022年8月にはSolana関連で、ウォレット「Slope」の秘密鍵管理をめぐる問題が疑われ、9,000超のウォレットが影響を受けたと報じられている。こうした事件は、ユーザーが「監査済みかどうか」を参加条件として確認する土壌を作った。

監査には人手の専門レビューに加え、自動化されたスキャンツールもある。Quantstampが提供してきた「Smart Contract Scans」のように、低コストで手軽にチェックできる一方、言語やバージョンの制約、設計意図を汲んだ判断が難しいという指摘も根強い。結果として、資産を扱う機能や複雑な仕様を抱える案件ほど、専門家によるコードレビューを中心に据える傾向が強まっている。
次に焦点となるのは、「実際の監査がどのように進み、どこが見られるのか」だ。不正防止の観点で重要な論点は、単なるバグ探しにとどまらない。
スマートコントラクト監査の実務プロセスとセキュリティ要件
監査は一般に、要件と対象範囲を固める打ち合わせから始まる。プロジェクト側は仕様書やアーキテクチャ、対象コントラクトを提示し、監査側は「何が正しい動作か」を確認する。ここが曖昧だと、攻撃耐性だけでなく、ビジネスロジックの逸脱も見逃されやすい。
工程は、ツールを使った自動解析と、監査人が行単位で読むコードレビューを組み合わせる形が主流だ。さらに、攻撃シナリオを組んで挙動を確かめるテストが入る。監査後はレポートが提出され、重要度や修正方針が整理されるため、開発は修正と再確認を繰り返すことになる。
チェック対象は「脆弱性」だけではない。ガス効率の悪さは、取引失敗や手数料高騰を招き、ユーザー体験と信頼に跳ね返る。加えて、周辺のAPIや管理画面、ドメイン運用が甘ければ、コントラクトが堅牢でもフィッシング誘導や権限奪取の入口になり得る。監査がセキュリティを“点”ではなく“面”で扱う理由はここにある。
実例として、NFTの販売で問題になりやすいのが「貫通ミント」だ。ホワイトリストで購入者を絞っていたはずなのに、条件検証の欠陥で対象外がミントできてしまう。2022年4月、NBA関連のNFTコレクション「The Association」では回数制限の検証不備が報じられ、攻撃者が大量に生成したとしてコレクション作成が一時停止された。設計段階の前提が、実装で崩れる典型例といえる。
こうした被害が示すのは、オンチェーンの不変性ゆえに「後から直す」コストが跳ね上がる現実だ。では、日本国内ではどの事業者が、どのような形で監査の受け皿になっているのか。
日本語で利用できる監査サービスと国内Web3への影響
国内では、日本語での仕様確認やレポート作成に対応した監査サービスが選択肢として定着してきた。代表例の一つが、東京に本社を置くTECHFUNDの「Hi AUDIT」だ。公表情報では30以上の項目をチェックし、最短3日で完了するケースもあるとしている。脆弱性の数やレベルに応じて費用が変動する報酬体系を打ち出し、事前の品質確保がコストにも反映される設計にしている点が特徴とされる。
監査の“見える化”を前面に出すのが、MonoBundleの「SuperAudit」だ。日本経済新聞は、監査結果をNFTとして発行し、監査を受けた事実をオンチェーンで示す取り組みを報じた。監査期間は依頼内容によって2週間から1カ月半程度とされ、NFTやDeFiのコード監査に対応する。監査証明をそのままブロックチェーン上の資産として扱う発想は、信頼の提示方法を変えつつある。
より広い領域をカバーするのが、GMOインターネットグループに関わる「GMOサイバーセキュリティ by イエラエ(IERAE)」だ。スマートコントラクトのソースコード診断に加え、アーキテクチャレビュー、クラウドやモバイル、API診断などを組み合わせて提案できるとしており、コントラクト外の攻撃経路も含めたセキュリティ設計につなげやすい。
監査の標準化が進むほど、ユーザー側の評価軸も変わる。「監査済み」の表示があるか、レポートの要点が公開されているか、運用体制まで触れているか。新規の分散型アプリやNFTが増える局面では、信頼の提示が集客や提携に直結するため、監査は技術工程であると同時に、事業継続の前提条件になりつつある。結局のところ、不正防止と透明性の積み上げこそが、国内Web3の成長を左右する基盤になっている。
