イーサリアム上でレイヤー2を使う動きが、取引コストと処理能力の現実的な制約を背景に広がっている。メインネットはおよそ15〜30件/秒の処理が限界とされ、需要が集中した局面では手数料が跳ね上がりやすい。一方、ロールアップなどのソリューションは取引をまとめて処理し、圧縮した結果だけをレイヤー1に戻すことで、スケーラビリティを補う仕組みだ。こうした構造が、日常的な暗号資産利用の導線を静かに変え、利用増加の土台になっている。
背景には、決済インフラとの性能差がある。ビットコインが約7件/秒、イーサリアムでも前述の水準にとどまるのに対し、Visaは約6万5,000件/秒規模の処理能力を持つとされる。2021年の混雑期にイーサリアムで単純なスワップが50〜200ドルに達した例は、処理能力の限界がユーザー体験に直結することを示した。そこで注目されてきたのが、メインのブロックチェーンの外側で計算を引き受けるレイヤー2という発想である。
イーサリアムのレイヤー2利用増加を支える手数料と処理性能の変化
ロールアップを中心とするレイヤー2は、取引の実行をネットワーク外で進め、定期的に証跡をイーサリアムへ送る。結果として、メインネットのセキュリティを土台にしながら、実務的にはトランザクション速度を大きく引き上げる設計になる。指標としては、レイヤー2側で2,000〜4,000TPS以上がうたわれるケースもあり、混雑時の待ち時間や手数料高騰を避けたい需要と噛み合った。
コスト面の転機になったのが、2024年3月に導入されたEIP-4844(プロトダンクシャーディング)だ。ロールアップがデータを投稿するための「ブロブ」が設けられ、従来のコールデータより低コストで済むようになったことで、レイヤー2の手数料は90〜95%下がったと整理されている。実例として、2026年4月時点ではArbitrumやBaseでのスワップが0.01〜0.05ドル程度に収まる一方、メインネットでは同様の操作が1〜5ドルになる場面がある。ここで言うガス代削減は、単なる値下がりではなく、日常利用の可否を分ける差になっている。
資金の集まり方にも変化が見える。レイヤー2全体だけで300億ドル超のTVLを抱えるとされ、さらに2026年第3四半期には、L2のDeFi TVLがイーサリアムメインネットを上回るとの予測も出ている。利用者の目線では「どこで取引しているか」を意識しない場面が増え、結果としてレイヤー2がインフラとして前面に出てきた。

BaseやArbitrumが牽引するレイヤー2ソリューションの勢力図
レイヤー2の主役は、楽観的ロールアップとZKロールアップに大別される。前者は「異議が出ない限り正しい」として処理を進め、後から検証できる枠組みで、EVM互換性の高さが普及を後押しした。代表例のArbitrumはTVL約166億ドル規模とされ、DeFiの活動量でも存在感が大きい。開発側にとっては移植の手間が小さく、ユーザー側にとっては主要dAppが揃っている点が強みになった。
もう一つの牽引役がBaseだ。Coinbaseが2023年8月に立ち上げたネットワークで、取引所からの導線を背景に拡大してきた。指標では、Baseがレイヤー2全体のトランザクションの60%以上を処理しているとの見方が示され、TVLも100億ドル超とされる。ユーザーが意識しないまま「出金先がBaseになっていた」というケースは、レイヤー2がアプリではなく流通の設計として浸透した象徴と言える。
OptimismはOP Stackの提供を通じて、Baseを含む複数チェーンの基盤を担う。単一チェーンの競争だけでなく、ソフトウェアスタックがネットワーク増殖を支える構図が、Webプラットフォームの歴史を思わせる。次に焦点となるのは、ユーザーが散らばった流動性をどう束ねるか、という課題だ。
取引所のUXがネットワーク選択を左右する流れは、暗号資産が「プロトコルの競争」から「導線の競争」へ寄っていくことを示している。では、技術的に優位とされるZK系は、どこまで迫れているのか。
ZKロールアップとプラズマを含むスケーラビリティ競争の現在地
ZKロールアップは、取引の正しさを数学的証明として提出し、レイヤー1が再実行せずに検証できる設計だ。理屈の上では出金の待機時間が短く、保証も明確になりやすい。一方で証明生成の計算コストや、EVM互換の実装難度が普及速度を抑えてきた。エコシステムが先に立ち上がった楽観的ロールアップが優位を維持するのは、ネットワーク効果が働いた結果でもある。
それでもZK陣営は前進している。zkSync Eraは汎用zkEVMとして拡大を続け、StarknetはSTARK証明を採用して高スループット志向を打ち出す。Polygon zkEVMはAggLayer構想の一部として位置付けられ、LineaはConsenSysが開発し、MetaMaskの存在感と隣接する。さらにコミュニティ主導のScrollも含め、選択肢は増えている。ただし、資金と開発者が分散しすぎれば、最終的に残るネットワークは限られる。21Sharesの調査として、100超あるL2の多くは生き残れない可能性が指摘され、統合局面に入っている。
ロールアップ以外にも、プラズマやサイドチェーン、ステートチャネルといった系譜がある。プラズマは子チェーンの枠組みとして知られ、基本的な転送などに強い一方、汎用計算には制約があるとされる。サイドチェーンの代表例として語られることの多いPolygon PoSは、速度とコストで利点がある反面、ロールアップのようにイーサリアムのセキュリティを技術的に継承するわけではないという整理も根強い。用途に応じて「何を信頼し、何を節約するか」を選ぶ時代に入った。
最後に残る論点は、普及が進むほど表面化する運用リスクだ。多くのロールアップではシーケンサーの集中やブリッジの脆弱性が課題として残り、L2Beatのような監視指標が参照されている。手数料が下がり、速度が上がった今、競争の中心は「安全に大衆化できるか」に移りつつある。
