Snapは、拡張現実を軸にした広告フォーマットの開発を改めて推進している。背景にあるのは、AR広告を「ブランド体験の拡張」と位置づけつつも、広告主側が費用対効果や運用の分かりやすさを求めている現実だ。2024年9月にAxiosが伝えたインタビューで、CEOのエヴァン・シュピーゲル氏は、ARと新しいオペレーティングシステムへの投資が広告事業を強化し得ると示唆した。ユーザー側では月間8億5,000万人規模の利用者基盤を抱える一方、広告では中小企業の獲得が課題だと同氏は言及しており、デジタルマーケティングの現場が求める「使えるAR」への転換が問われている。
Snapが進める拡張現実広告フォーマット開発と広告事業の狙い
シュピーゲル氏は、コードレスでコンパクトなARグラス「Spectacles」と、それを支える「Snap OS」を通じて、将来的に広告機会が広がる可能性に触れた。広告主がまず検討するのは、Spectaclesを介して「中核となるブランド体験」をどう拡張するかだという。つまり、従来のフィード型広告とは別の文脈で、体験そのものを広告に接続する構想がにじむ。

ただ、ARがすぐに広告収入の「特効薬」になるという見方は業界内で強くない。Collective Measurementsのパフォーマンスメディアディレクター、ローレン・ビアリング氏は、ARが下位ファネルの直接反応を押し上げる設計と必ずしも一致しないと述べ、認知・検討に強い一方で、獲得効率の説明が難しい局面を指摘している。
さらに、M&C Saatchiのメディア担当副社長クリス・リガス氏は、フィード広告はクリエイティブの統制と自然な組み込みが両立するが、ARの同等物は体験の一部として広告を成立させる必要があり、現状では侵入的になりがちだと話す。ユーザーエクスペリエンスを損ねないことが前提条件である以上、設計思想そのものが問われる局面だ。次の焦点は「誰でも運用できる形」に落とし込めるかに移る。
AR広告を支えるテクノロジーとクリエイター施策 月次チャレンジと報酬設計
Snapは広告だけでなく、供給側である開発者・クリエイターの裾野拡大にも手を打っている。その象徴が、毎月テーマを変えて作品を募る「ARチャレンジ」だ。最初のテーマ「ユーモア」は2025年1月23日から1月31日まで行われ、受賞発表は2月14日、1回あたりの賞金総額は1万ドルとされた。遊び心に見える枠組みだが、プラットフォーム側が新しい表現や操作の型を発掘する“実験場”として機能する。
同社は「Lens Creator Rewards Program」も展開し、特に成果を出したレンズ制作者が毎月報酬を得られる仕組みを用意している。ここで重要なのは、単発の話題づくりではなく、制作を継続可能な活動に寄せる点だ。インタラクティブ広告を成立させるには、表現の多様性と一定の品質が欠かせず、報酬設計がエコシステムの底上げにつながる。
学習面では、無料の教材を集約した「Snap AR Learning Hub」を立ち上げ、初学者から上級者までの参入障壁を下げている。広告主側が「作れる人材」を社内外に確保しやすくなれば、AR表現は一部の大企業の専売特許から離れやすい。運用体制が整うほど、ARはキャンペーン単位ではなく常設施策として検討されやすくなる、という読みも成り立つ。
欧州でのSpectacles展開と広告主の期待 コストと運用の壁をどう越えるか
ハードウェア面でも動きがある。SnapはSpectaclesの開発者プログラムを欧州6カ国に拡大し、開発者が月額110ユーロで購読し、ハードウェアとSpectaclesチームへのアクセスを得られる枠組みを示している。加えて教育機関向けには、月額料金が55ユーロになる50%割引のサブスクリプションも打ち出した。学校現場で使われるほど、ARは「実験」から「日常の道具」に近づく。
広告の現場が気にするのは、制作費と運用負荷だ。過去にはAR広告が多くのブランドにとって最低50万ドル規模で高額だったとされ、のちに10秒広告を50ドルでARに変換できる低価格帯の試みも語られたが、制作コスト自体が下がり切らない課題が残った。だからこそ、ARを広告費の受け皿にするには、制作から配信までの自動化や効率化が避けて通れない。
この点で、Tinuitiのシニアイノベーション&成長ディレクター、ジャック・ジョンストン氏は、TikTokがライブショッピングに寄っている一方で、SnapにはAR体験にショッピングを統合し、一貫した消費者導線を作る「滑走路」があると指摘した。ARを「面白い体験」で終わらせず、購買や来店など次の行動につなげられるかが、AR広告の評価軸を変える。
Snapの広報担当者はメール声明で、拡張現実は重要な機会だとしつつ、現時点で広告収益と広告プラットフォーム改善の多くは動画フォーマットの高性能化に投じていると説明した。大規模な機械学習モデルによるROI改善、シグナルの改善と拡張、DR(ダイレクトレスポンス)基盤の改善などが優先事項だとしている。ARの拡張と動画広告の最適化をどう両立させるかが、次の競争の焦点になりそうだ。
