Web3プロジェクトが、投機やブーム頼みの設計から、現場で使える実用性を軸にした開発へと転換している。転機の一つとして注目されたのが、2025年4月16・17日に東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開かれたTEAMZ Web3 AI Summit 2025だ。国内外の企業や政策立案者が集まり、分散型技術の社会実装、規制の整備、そしてユーザー体験の壁をどう越えるかが議論された。NFTや仮想通貨を扱うサービスが「流行」ではなく「インフラ」に近づく一方、制度と運用の詰めが成否を分ける局面に入っている。
TEAMZ Web3 AI Summit 2025が映した実用性重視のWeb3転換
サミットでは、「何を作るか」よりも「どう使われるか」が繰り返し問われた。ウォレットの導線、本人確認や会計処理、カスタマーサポートまで含めて整備しなければ、ブロックチェーンの利点は生活者に届かないという問題意識が共有された。議論は、エンタメ領域のNFTから金融、行政まで広がったが、共通していたのは「複雑さをユーザーに背負わせない」設計思想だった。
分散基盤の上で価値移転を行う以上、スマートコントラクトの安全性や監査体制も避けて通れない。特に、トークン発行やDeFi連携のように資金が直接動くプロダクトでは、技術面と法務面の擦り合わせが開発速度を左右する。会場では、UX改善とコンプライアンスの両立こそが、次の普及フェーズの条件だという見方が強まった。

大阪 関西万博のデジタルウォレットが示す社会実装モデル
実装の事例として取り上げられたのが、HashPortが紹介したEXPO2025デジタルウォレットだ。大阪・関西万博の「未来社会の実験場」という位置づけのもと、会場内外の決済や体験設計にWeb3要素を組み込む構想が提示された。NFTの取得や支払い行動に応じて「経験値」が蓄積し、一定条件でパビリオン抽選の当選確率が上がる仕組みは、ゲーミフィケーションを行政規模のイベントに持ち込む試みとして注目を集めた。
「EXPOトークン(1トークン=1円)」という設計や、SBIが提供するチャージ拠点を介してVisa加盟店でも使えるとされた点は、暗号資産ネイティブ層だけでなく一般来場者を意識した導線だ。万博史上初の全面キャッシュレス化を掲げる中で、ウォレットが「集客のための話題」ではなく、回遊や決済を支える基盤として機能するかが試金石になる。ここで得られる運用知見は、今後の大型イベントや都市サービスに波及しうる。
次に焦点が移ったのは、こうした取り組みを後押しする制度と市場環境だ。
日本の暗号資産政策と市場環境が促すWeb3プロジェクトの方向転換
サミットでは、自民党のホワイトペーパーを軸に、日本の暗号資産政策のアップデートが議論された。暗号資産を新たなアセットクラスとして捉え直す動きの中で、税制や投資商品の枠組みを見直す方向性が示された。具体的には、暗号資産の利益に関する課税を現行の雑所得(最大55%)から分離課税(約20%)へ移行する案、レバレッジ規制の緩和(2倍から10倍程度への見直し)、そして暗号資産ETFの国内解禁が俎上に載った。
bitFlyer、Coincheck、Sonyなどの関係者が参加したセッションでは、日本市場がかつて世界シェアの50%を占めた時期があった一方、現在は約1%規模まで縮小したとの指摘が出た。制度の不透明さや税制の不利が、起業家や資金の海外流出につながったという見立てで、巻き返しにはスピード感のある改革と実効性ある施行が必要だという声が相次いだ。規制が緩むこと自体が目的ではなく、利用者保護と産業振興の両立が求められている。
この政策論は、次に紹介された「実物の資産をどう扱うか」というテーマと直結していく。
RWAトークン化と大手企業の参入がWeb3のユーザー体験を変える
投機的な文脈から距離を取り、現実の取引や権利管理に接続する動きとして、RWA(実物資産)のトークン化とセキュリティトークンが取り上げられた。会場で共有された見立てでは、国内のトークン化市場は約3,100億円規模に拡大し、その約7割を不動産が占める。金融商品としての枠組みが明確な分、Web3が「使える」と評価されやすい領域でもある。
事例としては、KDXが国内初の不動産セキュリティトークンを発行し、投資商品としての信頼性に加えて体験価値も重視している点が語られた。TOYOTA FINANCE SERVICESによる車両のトークン化の試みは、投資家と顧客を直接つなぐ発想に加え、所有権管理やメーター改ざん防止、メンテナンス履歴の可視化といった実務的な効用が焦点になった。こうした用途は、ブロックチェーンの「改ざん耐性」を前面に出しつつ、生活者が恩恵を理解しやすい。
同時に、大手企業の取り組みも「プロダクトの完成度」を押し上げている。ソニー銀行はIP活用の文脈でNFTのコラボレーションに触れ、KDDIは「αU」ブランドでNFTマーケットやクリエイター支援、地方創生型の展開を進めている。楽天ウォレットは楽天会員基盤を背景に、ポイントでトークン購入につなげる導線を用意し、グリーはシンガポール法人を通じたトークン投資やバリデーター事業に力を入れるとされた。安定収益モデルとしてのバリデーターは、派手さより継続性を重視する現在の転換を象徴する。
課題として挙がったのは、ウォレット管理や鍵の概念など、一般層にとっての心理的ハードルだ。だからこそ各社は、既存サービスと自然に接続し、「知らないうちにWeb3を使っている」状態を目指す。熱狂の時代を経た今、Web3はプロダクト設計と制度整備の勝負に入ったという見方が、会場の空気を支配していた。
